世界のSDGsへの意識②
Reuse for the Future2021-10-14
前編では、「環境への意識や取り組みが日本は遅れているのではないか」という仮説のもと、調査を進めました。
そして、国内外の「SDGs」への認知度を比較したところ、日本が特別遅れているという印象も受けませんでした。
後編では別の角度から考えていきたいと思います。
新たな推測と疑問
(Photo by Scott Graham on Unsplash)
日本が遅れているわけでもないとすると、「SDGs」が日本でよく検索される理由、そして「SDGs」という言葉自体が取り沙汰される理由は何なのだろうか。
思いを巡らせた結果、出てきた推測は以下である。
「国民性として(環境だけでなくあらゆることに)問題意識を持ちにくい傾向があるのだろうか?」
「それゆえ、政策として取り上げることで国民に問題提起を投げかけて、行動を起こさせる必要があったのだろうか?」
「環境問題を身近に肌で感じることが他国よりも少ないのだろうか」
「衛生的で便利なことに慣れてしまい、環境に良いことよりも利便性を重視してしまう人が多いのだろうか」
以前ここで紹介した「グリーンリカバリー」の記事にもあるように、元々2020年は、SDGsアクションプラン2020によるSDGs「行動の10年」スタートの年だった。
国の政策として、2030年での目標達成に向け、2020年から本格的にSDGsへのアクションを起こしていこうという取り決めがあったわけである。
[nlink url=”https://wasabi-inc.biz/2021/09/08/green-recovery/”]
その取り決めは、日本人の傾向や国民性が故に立てられたものなのだろうか。
国民性と一言に言っても、積み重ねてきた教育方針や社会情勢、治安など様々な因子が複雑に絡んで構成されるため、明確に検証することは難しい。
しかし、コロナ流行の前と後を比較することで見えることもあるはずだ。
新型コロナウイルスの流行が日本人の意識レベルの変化に影響を及ぼしたことは確かである。
「SDGsへの取り組みとコロナ禍からの経済復興は、互いに切り離せない関係」
(引用:「グリーン・リカバリーとリユースの未来」より)
地球規模の課題という点で共通した新型コロナとSDGs。
コロナの流行が、SDGsに挙げられる問題を浮き彫りにしたのも事実。
前編のSDGsの認知度・意識レベルからして、現在の状況が世界平均だとすれば(世界の意識レベルも全体的に上がっただろうが)、以前の日本の意識はどのレベルだったのか。
そこで、以下の<仮説2>を立て、コロナ流行前後の日本の環境に対する意識を比較してみることにした。
<仮説2>
「日本人はコロナの大規模な流行によって、環境への問題意識に(半ば強制的に?)目を向けざるを得なくなり、やっと世界レベルで向き合うことができるようになった。」
コロナ流行前の日本
(Photo by Jezael Melgoza on Unsplash)
早速、コロナ前後の日本人の環境意識の変化に関する記事や情報をいくつか見つけた。
TOSHIBA Loops Stylesブログによると、コロナ流行前の日本は、
- 二酸化炭素排出量 世界5位
- プラスチック包装容器包装廃棄量 世界2位
- 食品ロス 世界6位
など、かなり深刻なレベルで環境問題を抱えていたことが分かる。
上記は全て、SDGsにおいても事細かに目標設定されている項目だ。
しかし、私個人の感覚・記憶では、コロナ前にそれがメディアなど一般の目に触れる形で問題提起されることは少なかったように思う。
同記事では、この結果に関して以下のようにも付け足している。
上記は、世界規模でみた際に日本が突出している環境問題の代表例となりますが、日本人の環境意識の希薄さを反映しているという見方もあります。他方で、環境意識は、「社会問題としての環境問題への意識」と「個人の環境配慮行動」が必ずしも一致するわけではないとの意見もあり、各方面でさまざまな調査や議論が展開されてきました。
こう言われると確かに、なんとなく環境問題は知っていても、それを日常生活に直接結びつけて意識することは少なく、個人個人の行動に反映されていなかった結果だろうか、とも考えられる。
コロナ流行後の日本
(Photo by Mediamodifier on Unsplash)
では、次にコロナが日本に蔓延してどんな変化があったのか。
これについても様々な機関や団体が調査を行っていた。
公益財団法人 旭硝子財団が2021年8月に行った「日本人の環境危機意識」についての調査も実に興味深い。
日本人の環境危機意識調査 | 環境危機時計® | 公益財団法人 旭硝子財団
この調査では、日本国内の一般消費者1,092名(18~24歳男女520名、25~69歳男女572名)に向けて様々な質問がされた。
(出典:日本人の環境危機意識調査 | 環境危機時計® | 公益財団法人 旭硝子財団)
上のグラフには、具体的な項目についての意識や行動の変化が前年度比とともに載せられている。
上から3つ目までの項目はどちらかというと環境に対しては喜ばしくない変化。電力使用量や自家用車の利用が増えたり、家庭ゴミが増えたりといったものだ。コロナ禍においてはなんとなく予想のできる結果である。
その下、4つ目以降の項目が、環境に対して前向きな変化である。
コロナ流行前の日本で、世界6位と紹介していた食品ロスについてもはっきりと意識が向けられている。
省エネや節水にも気をつけるようになったのは、コロナで家にいる時間が長くなり、電気代や水道代などで身を以て節約の必要性を体験すると同時に、環境問題へのニュースが目に止まりやすくなって、それらをより身近なこととして関連づけるようになったからなのではないか?という見方もできる結果だ。
「グリーンリカバリー」への意識
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン コロナ禍と暮らしや環境問題への意識に関する調査
こちらは、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンが、コロナ禍での環境問題や環境に配慮した持続可能な暮らしへの意識の変化を把握するため行った調査結果だ。
いくつかの調査結果を引用すると、
新型コロナウイルス感染症の流行の前に比べて、環境問題や環境に配慮した持続可能な暮らしに、より関心を持つようになった人は、「非常に当てはまる」「ある程度当てはまる」を合わせて53.4%。「前から関心があり、程度はあまり変わらない」は23.9%、「関心がない」「分からない」は22.7%
以前から環境問題に対して意識をしていて、コロナ前後でも変わらない人は23.9%に留まったことから見ても、大きく進歩的な変化であったことが分かる。
さらに、
「日本も、欧州等で進む『環境に配慮した社会・経済の仕組みにすることで、コロナ禍からより良く復興するためのグリーンリカバリー(緑の回復)などの施策』を推進すべき」
という項目に対し、74.3%が肯定的に答えた。
まとめ
コロナと聞くと「怖い」「抑制」「我慢」など、どうしてもネガティブなイメージを抱きがちだ。
しかし、今回の調査のような側面を見てみると、必ずしもネガティブな結果をもたらすものではないとも言える。
結果的に見てみると、環境面ではこんなにもポジティブな変化が現れているのだ。
これほどまでの世界的な危機が訪れなければ、利便性に心を囚われたまま、「はっ」と気づかされることもなかったのだろうか、手遅れになるまで意識できなかったのだろうかと、違ったかもしれない未来を考えてゾッとしてしまう。
日本ではたまたまSDGsという目標設定の施策が機能しているのかも知れない。
それとも意図的にそうされたのかもしれない。
他国では、もっと身に迫る危機を感じ、その問題に重点的に焦点を当てていることもあるのかもしれない。
しかしどちらにせよ、どんなアプローチであるにせよ、世界が抱えている問題はこの地球上で生活をしている人々それぞれみんなが抱えるべき問題である。