モノにもセカンドライフを―修理前提の社会へ
Reuse for the Future2021-10-25
2020年11月、欧州議会で「修理する権利」の確立を求める決議が可決された。
修理する権利―なかなか耳馴染みの無い言葉の羅列だが、簡単に言うと「消費者が自分の手で製品を修理し、長く使い続けられる事を推進する」取り組みだ。
日本の一般的なケースでは、家電製品が故障した時には、メーカーのカスタマー窓口や購入した小売店へ問い合わせする事が多い。
そして、案内に従って製品を修理に出したり、修理が難しい場合には回収を依頼したりする。
「修理する権利」は、この流れを根本から変え、新しいモノの価値基準を生み出すのだ。
「修理する権利」
「修理する権利」とは、消費者が購入した製品を製造メーカーや小売店などを通さず、自分で修理出来るようにすることである。
欧州議会で可決されたこの決議には、以下のような欧州市民の考え方が影響している。
「EU市民の77%が、製品を買い換えるよりも修理し使いたい」と考えている
「EU市民の79%が、消費者側でも製品の修理・部品交換が簡単に行えるよう、製造メーカーに法律で義務付けるべきだ」と考えている
参考:欧州議会プレスリリース
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20201120IPR92118/parliament-wants-to-grant-eu-consumers-a-right-to-repair
ユーロバロメーター/私たちの日常生活におけるデジタル化
https://europa.eu/eurobarometer/surveys/detail/2228
この可決により、2021年1月から、フランスでは家電製品の新たな価値基準・修理可能性指数が設定された。
修理可能性指数とは、消費者が自らの手で修理しやすいかどうかを数値化したものだ。
0から10までの点数で示し、製品購入時の選択基準にして貰うというわけである。
基準の例としては、以下のような項目がある。
・家電メーカーが作成する一般ユーザー向け製品ガイドの充実度
・製品が分解出来るか否か、必要な道具や工程はどのくらいか
・交換部品の入手が容易か、その供給期間はどのくらいか
・交換部品の価格設定
・製品の種別などによる製品寿命の違いも加味する
上記以外にも、製品のジャンルによっては固有の判断もあり、多くのルールで点数が算出されている。
製品の点数の例(引用:Sparekaの製品別の修理可能性指数より https://www.indicereparabilite.fr/)
欧米で広がる家電修理サービス
「修理する権利」の促進により、欧米では家電修理業界の勢いも年々増している。
これからご紹介する企業は、その一例である。
Spareka
フランスの家電製品の診断・修理を支援する企業。
特定のメーカーに限らず、故障した家電の交換部品を検索したり、オンラインで家電修理のアドバイス・支援も行っている。
SOS Accessoire
Sparekaと同じく、フランスの家電修理企業である。
2021年4月には、ETF Partnersを通し投資家から1000万ユーロ(約13億円)を調達しており、注目度の高さが伺える。
参考記事:フランス家電修理会社SOS Accessoireが約13億円調達、消費者の節約だけでなく環境への貢献を目指すhttps://jp.techcrunch.com/2021/04/29/2021-04-28-frances-sos-accessoire-raises-12m-to-help-people-repair-their-home-appliances-themselves/
iFixit
ここまでの2社とは異なり、有志で成り立つ家電修理のウィキペディアのような存在である。
一部日本語翻訳もされており、大まかな趣旨や内容の確認が可能である。
公式サイト:https://jp.ifixit.com/Right-to-Repair/Intro
修理マニュアルの公開なども行っており、マニュアルガイドに従って自分で修理する/自分では解決できない事を投稿し他のユーザーへ回答を募るアンサーフォーラムなどのコーナーで構成されている。
「修理の権利」の拡大、日本では困難か?
前項でも記述した通り、家電修理市場の拡大の中心地は欧州である。
下地として、「修理する権利」可決の影響は大きく、環境対策の一部―サーキュラー・エコノミーの一貫とも捉えられているのだ。
[nlink url=”https://wasabi-inc.biz/2021/06/02/circular-economy02/”]
欧州では、修理可能性指数の導入により、製品を選ぶ基準として「修理がしやすく、製品の寿命が長いものかどうか」が消費者の意識に根付いて行くだろう。
日本の消費者にとっては、もちろん「長く使えて質の良いものを」買い求めるのは当然のことだが、修理という観点からは縁遠く思える。
しかし、日本の販売メーカーにとっては大きな影響がありそうだ。
欧州へ家電を輸出・販売する際には、例外無く修理可能性指数の設定が求められ、修理に必要な交換部品の提供についても欧州のメーカーと比較される。
今後、対応を迫られる事は必至である。
この流れが国内の製品にまで何かしら波及するかどうかは、少し疑問が残る。
「新しい製品への買い替え・メーカーによる消費者の囲い込み=企業の利益」となっている以上、国内メーカーの自浄作用に頼る「修理の権利」拡大は想像し難い。
将来的に、欧州・アメリカと世界的な広まりに押されて対応を余儀なくされるケースはあるだろう。
理想を言えば、家電メーカーや消費者共に、受動的な変化より主体的な意識改革が望ましい。
今後は、消費者側の「モノの修理しやすさ」も価値の一つであるという意識の芽生え、根付きも、重要なキーワードになりそうだ。
参考:
欧州議会、「修理する権利」の確立を欧州委員会に求める決議を採択。製品寿命の開示も要求
https://cehub.jp/news/european-parliament-resolution-right-to-repair/
その家電、修理できますか?
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210608/k10013073321000.html
フランス政府、修理可能性指数の利用促進に向けキャンペーンを開始
https://www.eic.or.jp/news/?act=view&oversea=1&serial=45453