Reuse for the Future

日常に根付いたSDGsとESG② 〜ESG編〜

Reuse for the Future2021-09-22

前回は「SDGs」についておさらいした。
今回は、「SDGs」とともにあわせて知っておきたい「ESG」について、より身近なことに落とし込みながら解説していきたいと思う。

ESGとは

しばしば「SDGs」とセットで出てくるワード、「ESG」。
「ESG」は、「Environment(環境)」「Society(社会)」「Governance(ガバナンス、企業統治)」の頭文字を取ったものである。
※ Environmental, Social, Governance と表されることもある。

主に「ESG投資」という言葉で使われ、投資家が投資決定をする際に重要視してほしい内容を示し、周知させるために発せられた言葉だ。

そしてこの言葉は遡ること、2005年。当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が、各国金融業界に向けて「責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)」の策定作業への参画を呼び掛けたことから始まった。

2015年の国連総会で採択され誕生した「SDGs」よりも10年も前のことである。

PRI は責任投資を環境(environment)、社会(society)、ガバナンス (governance) の要因(ESG 要因)を投資決定やアクティブ・オーナーシップに組み込むための戦略および慣行と定義しています。
(引用:責任投資原則 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトと連携した投資家イニシアティブ

「責任投資原則」とは、簡単に言えば、投資家(または

[simple_tooltip content=’企業と利害関係が生じる全ての人のことを指し、株主・経営者・従業員・顧客・取引先など、広範囲の対象を示す’]ステークホルダー[/simple_tooltip]

)の皆さんは、投資をするときに「環境」「社会」「ガバナンス」の要因をしっかりと見て決めてくださいね、といったものだ。
ESG要因の具体例に見てみると、世の中に意識すべき事柄や課題は無数にあり、時代や社会の動きとともに絶えず変わるものであることがわかる。下はその中の一部の例だ。

これらの課題点を見れば、世界的な大手企業はどこも、これらのESG要因を押さえた経営をしていることが分かる。
ESGは企業評価にとっても重要な軸であり、これらの要因を意識せずして今後の企業の発展は望めないものとなっているのだ。

サステナブル(持続可能な)社会を構築していくために、立てられた目標が「SDGs」。
そのSDGsを達成するための一つのプロセスともなるのが「ESG(投資)」というように解釈できるだろう。

ESG投資とエシカル消費

改めて「投資」ということばを辞書で引いてみる。

投資・・・
利益を得る目的で、事業・不動産・証券などに資金を投下すること。転じて、その将来を見込んで金銭や力をつぎ込むこと。
(引用:投資(とうし)の意味 – goo国語辞書

投資とは、利益を得る目的で行うものである。そのポイントは、一体何に対して金銭や力をつぎ込んでいるのかを理解・分析することであろう。
つまりESG投資では、企業の環境や社会、ガバナンスへの取り組みを見て、それが将来にも世界全体にも、そして自分自身にも有益であると判断し、資金を投下していることと言える。

投資と聞くと、なんだかビジネスや金融関連の言葉として、日常からは遠ざけてしまいがちである。しかし、この概念をもっと私たちの日常に落としこむ事ができるのではないだろうか。

私たちは常日頃から、様々な選択を積み重ねて生きている。

例えば、日々の食品の買い出し。

・スーパーに行くか、専門店に行くか
・何を食べよう、何を買おう
・どの産地のものを買おう
・どのブランドのものを買おう
・安さで選ぶか、味や品質で選ぶか

慣れてしまうとあまり意識をすることはないが、小さな選択を数えはじめたらキリがないくらいだ。
これら数多の選択において、ESGを意識することもできるはずである。

「エシカル消費」

日常のESG投資を言うなれば、こう表すことができるのではないだろうか。
「エシカル(ethical)」というのは「倫理的な、道徳的な」という意味を表す。

つまり、「エシカル消費」というのは「倫理的/道徳的な消費」という意味。

簡単に言ってしまえば、地球や社会全体のことを考えたときに、「こっちの方が良いはず!」と良心に基づいて選択し、消費活動をしていくことだ。

国産の野菜を買おうか(地産地消)
オーガニックの製品を買おうか(環境や生産者への配慮)
フェアトレードの製品はどれだろう(労働環境の改善)
簡易包装の商品がいいな(資源・環境への配慮)
容器持参の量り売り販売を利用しよう(資源への配慮・再利用)

ESGの観点において、A社の製品とB社の製品どちらが良いかなと比べて選択することもできる。
どの企業の何にお金を払っているのか、自分たちが払ったお金はこの先一体どういう風に活かされるのか。
投資家でなくても、一消費者としても目を向けておきたいことではないだろうか。
そして、そういった視点と消費活動が一般的に広まっていくことで、SDGsの達成はどんどん近づいてくることだろう。

サラヤの例 〜パームオイル〜

企業にとっても、投資家にとっても、そして消費者にとっても、ESGやサステナビリティがいかに重要性かがよくわかる例をあげたいと思う。
昔から多くの人に使われているサラヤ株式会社の「ヤシノミ洗剤」だ。

サラヤ株式会社(以下、サラヤ)はSDGsの先進企業と言える。
社名ではピンとこなくても、「ヤシノミ洗剤」と聞くと学校や職場などでお世話になったことがある人も多くいるはず。

(引用:サラヤ公式サイト ヤシノミ洗剤の歴史|ヤシノミシリーズ

詳しく知らずとも、なんとなくヤシノミ洗剤は環境に優しいというイメージがあるだろう。
創業以来、環境や社会問題と向き合ってきたサラヤ。
時代に先駆けて環境保全に取り組んできた企業であり、企業理念として「世界の『衛生・環境・健康』に貢献すること」を掲げている。

しかし、そんな企業でも思わぬ形で世間から大きな批判を受けた過去がある。
それはパームオイルを巡っての問題だった。

2004年にとある番組から出演依頼を受けたサラヤ。そこで思いもしなかった環境問題と直面する。
その番組内容は、パームオイルの生産が熱帯雨林の破壊を進め、生物の命を脅かしているというもの。

<パームオイルとは>

パームオイルは私たちの生活のありとあらゆる物に使用されている。
しかし、一般的には、<植物油/植物油脂/ショートニング/マーガリン/グリセリン界面活性剤>などと表記されているため、「パームオイル」として認知されていることは少ない。
それゆえ、「見えない油」と言われることがあるくらいだ。

実際、朝から夜眠るまで、パームオイルは生活に密接に関わっており、手に触れない(口にしない)日がないものである。
一度、身の回りの製品の成分表をチェックして、上記の表示がないか確認すると良いだろう。

パームオイル イメージ

確かにヤシノミ洗剤にはごく一部ではあるが、パームオイルが使用されいる。
そのパームオイルが自然や野生動物を脅かしているというのだ。
その事実をサラヤが知ったのも、番組への出演オファーがきっかけだった。
イメージダウンを懸念し他企業がこの出演を断る中、サラヤの社長は、正直に知らなかったことを伝え、事実と向き合うべきだと出演を承諾。
これにより、一時は視聴者からバッシングを受けたこともあった。

(引用:Unsplash|photo by  Rob Hampson

しかし、この問題は「じゃあパームオイルは使わなければいいよね」といった単純なものでもない
例えサラヤがパームオイルの使用をやめても、世界のパームオイルの消費が変わるわけではない。
さらに、このパームオイルの生産で生計を立てている人々も世界には数多くいる。
サラヤは問題についてとことん学び、パームオイルの利用企業として何ができるのかを調べ、考えた。

パームオイルの問題について詳しく学びたい方はこちらを参考にすると良いだろう。
▷ WWF JAPAN パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの

そして、その年のうちにRSPO加盟を申請し、翌年には日本企業として初めてRSPOに加盟した。RSPOとは、持続可能なパームオイルの生産と使用の促進を目指して、認証制度を行っている団体だ。その認証は、生産基準が持続可能であることを保証するもので、認証を受けている商品には以下のようなマークがつく。

今私たちにできることは、出来る限りこの認証を受けた商品を選ぶことだろう。
残念ながら日本企業の加盟はまだまだ少ない。

(引用:サラヤ公式サイト RSPO認証「認証モデル アイデンティティ・プリザーブド(IP):分離方式」

テレビ出演をきっかけに始まったこの取り組みの変遷は「活動ヒストリー」として公式サイト内で詳細に綴られている。
そしてサラヤは現在も、サステナビリティへの取り組みの一環として、パームオイル問題に向けた「ボルネオ環境保全プロジェクト」という活動を積極的に行っている。

サラヤの事例から学ぶこと

一時は批判の的となったサラヤだが、突きつけられた問題に誠心誠意向き合い、常に改善と解決を目指して取り組んできた。
この誠実な対応を受けると、視聴者も知識不足のままジャッジしていた部分は認めざるを得ない。
問題をきちんと分析し、多面的に考慮して取り組みを決定していくことが、新たな信頼の獲得へと繋がるだろう。

サラヤの事例をESGの観点で見てみると、パームオイルをめぐる問題を、Environment(環境)とSocial(社会)の両面から観察し、取り組みを見定めていることがわかる。
そして、その取り組みやそこに至った経緯を一般の消費者の目にも触れるように公式サイトで紹介している。
この取り組みのきっかけともなったメディア露出の際も、他企業がイメージダウンから逃げていた中、事実を受け止め、知らなかったと正直に認めているところから、その公平性と透明性が伺えるだろう。
消費者志向自主宣言」と題して、お客様の声に大切にして、ステークホルダーと共にシステムの継続的改善を図るとも唱えている。
この点においてGovernance(企業統治)の要因も充分に押さえているのではないだろうか。

サラヤのサイトでは、SDGsとESGの観点に基づいた推進方針もきちんと明記している。
|サラヤ株式会社 サスティナビリティ サステナビリティ推進方針

また、投資や企業発展の面だけでなく、消費者としても、その製品の背景を知ることがいかに大切かを思い知らされる。
何気なく買って使っていた製品が、違法に栽培され生産されたパームオイルだったなんてこともあり得る話だ。
環境や野生動物、そしてそこで暮らす地域住民や労働者のためにも、持続可能な方法で生産されている商品にアンテナを張っていきたいと感じさせられる事例であろう。

まとめ

投資家であろうと、企業のトップであろうと、生きている限りは皆必ず消費者という一面を持つ。
仕事において「ESGを意識」「SDGsへの取り組み」と掲げていても、消費者としてその思考を実践できていなければ意味を為さないだろう。

企業にとってのESGを言えば、環境や社会への配慮、そして外部の声に耳を傾ける姿勢が今後の企業発展への鍵となる。
さらに、昨今では投資家だけでなく消費者も、「何に対してお金を払っているのか」ということに敏感になりつつあることも念頭に置いておきたい。
透明性は信頼への第一歩である。

SDGsの達成に向けて、あらゆる立場の人がESGの視点を持ち、日常生活においてもエシカル消費を積極的に行っていくことが望まれる。

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