Reuse for the Future

真の代償-ファストファッションの労働問題

Reuse for the Future2022-01-05

現状

「もしそれが空腹や不幸を作るならば、最高の布に美しさはありません」

マハトマ・ガンディー


ResearchAndMarkets.comのリポートによると、2020年ファストファッションの市場規模は686.35億ドル(約7.85兆円)になっています。
そして、2025年の市場規模が1634.69億ドル(約18.71兆円)になると予測されています。
こんなに急成長している膨大な産業が、今私たちの生活に深刻な影響を与えています。

(ファッションショーはまさしくこの業界の「おしゃれな」服になっています。引用:https://www.sustainyourstyle.org/en/whats-wrong-with-the-fashion-industry

パリのファッションショー、あちこちに佇む大看板、SNSでのインフルエンサーたちの写真、いずれも華やかな感じで、私たちの購入意欲を刺激しています。

この数十年、グローバリゼーションにより服の価格が低下し、同じ予算でより多い服を買うことができる一方で、人や環境が支払う代償は劇的に上昇してきました。
この前の記事「廃棄した古着は最後どうなる?」はファストファッションと地球環境の関係について述べましたが、今回は人類が人間として払う代価について書きたいと思います。

映画『ザ・トゥルー・コスト(真の代償)』

2013年4月24日、バングラデシュのダッカで衣服労働者の働くビルが倒壊し、1,100人以上の命が失われました。
このビルには、ヨーロッパの大手ファッションメーカーが多く入っており、その安全管理が疑問視されました。
この日の大惨事がきっかけに作られた映画があります。
それは『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』です。

『ザ・トゥルー・コスト』は服について私たちが知るべきストーリーに光を当て、「服に対して本当のコストを支払っているのは誰か?」という深刻な問題を提起しました。
ファストファッション業界裏側の闇に焦点を当てたこのようなドキュメンタリーは、これまでにありません。

私たちが観念を変えず、安さだけを求めて買い物をし続ける限り、また同じ悲劇を繰り返す可能性があります。
そして、ダッカでの事故を受け、ファッション業界の変革を目指す活動家たちが、2014年より4月24日を「Fashion Revolution Day(ファッションレボリューションデイ)」として、世界各地でファッションを変革する呼びかけを行っています。
しかし、ファストファッションが利用しているこのような労働仕組みは、何十年の発展を経て、すでに根深く定着しています。
効果ある変革は、一朝一夕にできません。
さて、一体その仕組みにどのような問題が潜んでいるのか、これから詳しく説明していきます。

労働問題概要

企業は最大の利益を追求するのが本質であり、組織として存在する目標でもあります。
グローバリゼーションによって、先進国の企業にとって国内よりはるかに安い外国の労働力市場が出てきました。
もちろん、企業がこのチャンスを見逃すわけがありません。
一方、安い労働力市場を持つ国の政府も、国の収入を増やすために、海外企業を招致しようと、様々な対応の環境を作り上げました。
その結果、ほぼすべてのファストファッション企業が中国、インド、ベトナム、バングラデシュなどの国に工場を設立し、あるいはその国の下請け企業を雇っています。

むろんこのような国際的経済活動は全世界の経済を活発させ、人々の収入を増やす積極的な効果があります。
しかし、賃金の差や国が人権に対する態度の差などがあって、国の間での発展のギャップが拡大する一方です。

特に、衣料品工場の労働問題は世界市場時代の難問を例証しています。
最低賃金と長時間労働、非正規雇用と不法雇用、劣悪な労働環境や児童就労などの問題はすでに深刻になっています。

最低賃金と長時間労働

賃金についてといえば、最大利益を確保するため、ファストファションの生産工場のほとんどは、その地域の最低標準に賃金を控えています。
国によって、最低標準以下のケースも少なくありません。

そして、工場が絶えず膨大な需要を満たすために、たくさんの労働者が時間外労働を強制されています。
Clean Clothes Campaignの統計によると、ファストファッション生産工場の労働者が毎日の平均労働時間は10〜12時間で、注文の多い時期には16〜18時間もあります。
賃金が低いあるいは仕事を失う恐れがあるため、労働者は残業を断ることができないのは現実です。

健康と安全上のリスク

前に述べたバングラデシュのダッカでの大惨事のような事故は、偶然の出来事とは思えません。
最大利益を求めるために、もともと付加価値が低いこのような衣料品加工工場は、安全設備に出すべき費用を削って、最低限の労働環境を労働者たちに提供しています。
これが原因で、健康や安全上のリスクが高まっています。
ダッカでの事故の一年前、2012年には、パキスタンのAli Enterprises工場火事で、250人以上の命が失われました。
事後の調査によると、この工場は稼働できる消火や警報などの防災設備が一切ありませんでした。
しかも、避難経路は一つしかありません。

(2013年バングラデシュのダッカでの事故の現場。引用:https://www.theguardian.com/world/2016/jul/18/rana-plaza-collapse-murder-charges-garment-factory

命に直接に関わる安全設備の不備のほかに、長期的な健康を損なう有害化学物質も問題になっています。

ファストファッション工場では一般的に合成染料や合成繊維が大量に使われています。
合成染料や合成繊維のような化学材料のなかに発がん物質があるので、長期間それらと吸入、あるいは接触すれば、肺がん、乳がん、中皮腫や生殖機能障害などの難病を患う可能性が高くなります。

児童労働問題

産業革命時代に、生産技術が飛躍的に進歩や海外市場の開拓につれ、労働力に対する需要が急激に上昇しました。
児童の権利を保護する法律がまだなかった当時、工場(特に織物産業)が都合よく児童を雇用しはじめました。
このように、近現代の児童労働歴史の幕が開けられました。

それから百年後の今、バングラデシュ、ベトナムなどの途上国の衣料品生産工場では、まるで時間が止まっているように、同じ悲劇が演じられています。
グローバリゼーションによって、この光景が先進国から途上国に移っただけです。

国連の児童労働に対する現代的定義によると、15歳未満(途上国は14歳未満)、つまり義務教育を受けるべき年齢の子どもが教育を受けずにおとなと同じように働くことと、18歳未満の危険で有害な労働を「児童労働」としています。
International Labour Organization(国際労働機関)は、現在全世界で1.7億人の子供が児童労働として働いていると推定しています。
そして、多数がファッション関連生産産業にいます。

もちろん、貧困などの原因で、働かなければならない状況が多いですが、自分の人生を変えることができる教育を受けるチャンスを失うのは極めて残念なことです。

まとめ

ヘンリー・フォードが大量生産という画期的な生産方式で世界を変えて以来、大量生産・大量消費の循環はすでに人々の日常になっています。もちろん、この生産方式が確かに私たちの物質生活を豊かにしています。しかし、同じコインは表裏があるように、大量生産・大量消費という方式に普段見えない裏側があって、人類の一員としてその問題をあらためて認識しなければなりません。

映画『真の代償』がその膨大で複雑な問題のほんの一部を人々へ知らせました。きらびやかなランウェイと鬱々としたスラムの落差は、理想と現実の落差のように、私たちの心を刺さっています。

映画の紹介文を引用してこの記事を終わろうと思います。

「これは衣服に関する物語で、私たちが着る服や衣服をつくる人々、そしてアパレル産業が世界に与える影響の物語だ。これは貪欲さと恐怖、そして権力と貧困の物語でもある。全世界へと広がっている複雑な問題だが、私たちが普段身に着けている服についてのシンプルな物語でもある。」


参考:

https://cleanclothes.org/

The True Cost
https://unitedpeople.jp/truecost/

Why Does The Fashion Industry Care Less About Garment Workers In Other Countries?
https://www.forbes.com/sites/brookerobertsislam/2020/07/30/why-does-the-fashion-industry-care-less-about-garment-workers-in-other-countries/?sh=60495492c0dc

Fashion Industry Giants Keep Failing to Fix Labor Exploitation
https://www.thefashionlaw.com/why-does-the-fashion-industry-keep-failing-to-fix-labor-exploitation-its-simple/

Consumers want labour rights transparency. Fashion is lagging.
https://www.voguebusiness.com/sustainability/consumers-want-labour-rights-transparency-fashion-is-lagging

Clothing Factory Workers Exposed to Toxic Chemicals
https://www.pintas.com/blog/clothing-factory-workers-exposed-to-toxic-chemicals/

Why we need to tackle the hidden chemicals in our clothes
https://www.vogue.in/fashion/content/why-we-need-to-tackle-the-hidden-chemicals-in-our-clothes

What’s wrong with the fashion industry?
https://www.sustainyourstyle.org/en/whats-wrong-with-the-fashion-industry

Child labour in the fashion supply chain
https://labs.theguardian.com/unicef-child-labour/

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